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2020年5月31日日曜日

ポスト・コロナ時代に向けて走り出した世界


Cheers 2020年6月号記事

                       
                        AJCN事務局長兼代表 江川純世


今月号では、新型コロナウイルス禍が収まった後のポスト・コロナ時代に向けて準備を始めた中国と米国の動きを中心に、それがどんな世界になるかについて考察してみる。


1. 民主主義国から批判される中国共産党(CCP)の情報隠蔽、感染拡散放置
2019年12月にSARSに似た新型肺炎が武漢で発生し、12月末に医者グループのSNSサイトで李文亮氏がこれを発信したが、武漢市公安当局はこのホイッスルブロワー、李氏を処罰した。李氏がこの病気で死亡したことはよく知られ、中国国民の怒りを買った。12月31日、台湾は、独自の調査により、SARSを疑わせる症状があることや患者が隔離治療を受けていることを明記したメールをWHOに送ったが無視された。WHOは現在中国の影響下にあり、中国の指示で動いていることに対し特に米国から強い非難を浴びている。(米国はWHO への拠出金の停止を決定し、インターネット署名サイト「Change Org.」によるWHOテドロス事務局長の辞任要求は5月1日で署名102万人を超えた)
中国の隠蔽の証拠は今アメリカによってまとめられている最中だが、1月3日時点で国家衛生健康員会が「新感染症に関する情報管理の強化」と「サンプル類の破棄」を指示した文書を発行している。CCPの理論誌「求是」のウェブサイトは1月15日、1月3日に行われた党最高指導部の会議で、習近平総書記が「1月7日に対応を要求した」と発言したと報道、その時点で中国政府が情報を得ていたことを認めた。中央政府専門家チームのトップ医師、鍾南山氏は1月19日、武漢の感染症専門病院や海鮮市場を視察し、「人から人への感染」を確認した。その報告を受け1月20日習近総書記は「感染蔓延の阻止」と「迅速な情報開示」を命じる「重要指示」を出した。情報は約2週間隠蔽されたことになる。1月23日に武漢の封鎖開始、その前に500万人の武漢市民が脱出し、中国国内外に散った。中国は春節25日の前後の休暇(1月10日~2月18日までの40日間)の約30億人の移動を黙認、多くの武漢人が日本、欧州、米国他に移動し、感染をスタートさせた。この出国放置は「未必の故意」といえる。鐘南山医師の調査チーム自身が2月28日付で、中国当局が新型ウイルスへの対策を5日早く始めていれば、感染者は3分の1に抑えられていたという論文を発表しているのだ。


2. 中国は大国の自閉症:マスク外交と金のバラマキによる懐柔策と経済報復の脅し
周辺国のリアクションに鈍感な中国の言動は「大国の自閉症」と言われている。(戦略家エドワード・ルトワック氏)前月号で豪州でのすさまじいマスクや医療品の買占めについて書いたが、世界各国で現在まで中国が買い集めたマスクは22億枚と言われている。この買占めによって各国のマスク不足が顕著になり、中国に対する反感が増した。1月中旬から中国は感染が他国に及ぶと考え買い占めを指示、自国での感染が収束すると今度は感染に苦しむ他国にマスク外交を仕掛け、「対価」と「感謝」を要求している。しかし提供されたマスクや人工呼吸器、検査キットの多くが不良品であることが発覚、各国の不信は更に大きくなった。豪ピーター・ダットン内務大臣が米国や欧州諸国と同様、新型コロナウイルスの起源について中国に透明性を要求し、独立的調査を呼びかけたが、中国の反応は、これはアメリカのプロパガンダ戦争の主張のオウム返しであり、無知と偏見の露呈という非難であった。
https://www.abc.net.au/news/2020-04-22/coronavirus-china-peter-dutton-covid-19-ransparency/12171050

A Chinese embassy spokesperson said Peter Dutton must have been told to work "with the US in its propaganda war".(ABC News: Jed Cooper)

中国 成競業大使は4月23日に豪経済誌オーストラリアン・フィナンシャル・レビューのインタビューに対し、感染拡大に関する調査を要求することは豪州産ワインや同国への旅行のボイコットにつながりかねない、留学生の親たちも友好国でないどころか敵対国ですらあるとわかった所へ子供たちを送って良いか自問する可能性もあると脅した。そして極めつけはCCPの海外向け広報メディア環球時報が豪州を"Chewing gum stuck on the sole of China's shoes".(靴底についたチュウインガム)と評し、"Sometimes you have to find a stone to rub it off," (時々石でそぎ落とさないといけない)と書き、豪州人をカンカンに怒らせた。
https://www.abc.net.au/news/2020-04-30/coronavirus-china-diplomatic-backlash/12198674


2. ポスト・コロナ時代の覇権確立に動く中国の火事場泥棒的軍事活動
中国は各国がコロナウイルス禍で苦しむ中、着々と手を打っている。

1) 中国、南シナ海に新行政区を設置
中国政府は4月19日までに、各国が領有権を主張する南シナ海に新たな行政区を設置すると発表した。南シナ海の実効支配を強める中国にベトナムが反発しており、緊張が高まっている。今後は三沙市に、「西沙区」と「南沙区」を新設し行政組織も設ける。南シナ海をめぐっては4月に入り、中国の海警局の船がベトナム漁船に体当たりして沈没させ、米国は「深刻な懸念」を表明している。


2) 中国空⺟「遼寧」など6隻が沖縄・宮古島間通過、台湾付近で軍事演習
4月10日、中国海軍の空母「遼寧」と機動艦隊計6隻が沖縄本島と宮古島間を南下、太平洋へ向けて通過した。

3) 南シナ海をめぐる米国と豪州の反応
米国は中国海軍の動きに反応し、台湾にロナルド・レーガンを中心とする空母機動艦隊とB1爆撃機、空中給油機を派遣した。(5月20日の蔡英文大統領就任式対策)
米国は2018年3月、米空母カール・ビンソンをベトナム(ダナン港)に歴史的寄港をさせた後も空母セオドア―・ルーズベルトをベトナムに派遣している。豪州は海軍のフリゲート艦HMASパラマッタを南シナ海に送り4月22日米軍と合同演習を行った。HMASパラマッタは、この地域の安定と安全の強化目的で、過去2か月間、南アジアおよび東南アジア全域で活動している。
演習中のHMAS パラマッタと米空母(Twitter: Department Of Defence)


3. 中国の覇権拡大の動きに対抗する米国の報復策
武漢ウイルス抑え込みに苦しむ自由主義国を尻目に、中国は発展途上国に対し「債務の罠」を仕掛け、これらの国々を支配する力を強化している。ポスト・コロナ時代における中国の挑戦を察知している米国は中国への報復計画を練っている。4月28日AFPはトランプ大統領が中国に損害賠償請求の可能性を示唆したと報道、4月29日、フランス国際放送局は香港経済日報の報道を引用し、すでに米、英、伊、独、エジプト、インド、ナイジェリア、豪州8か国の政府,民間機関が訴訟を起こしているとした。賠償訴訟の請求金額にミズーリ州の請求額を加えると1京1,000兆円(100兆ドル)を上回る。トランプ大統領の指示で、米政府当局者が報復行動プラン作りに入ったと5月1日ワシントン・ポストが報じた。具体的には中国政府を裁判にかけられるよう国家主権免除を剥奪したり、中国からの輸入品に1兆ドルの関税をかける等である。
ポスト・コロナ時代はアメリカを中心とする自由主義国と中国とそれに同調する少数の独裁主義国のDecoupling: 非干渉化が進むであろう。サプライチェーンを見直し、安全保障上問題となるコアーソースの調達網から中国が排除される。米国ではスタンフォード大学やMITのような有名校が中国人留学生の受け入れを停止し始めた。CCPの先兵として海外で動く留学生や、先端技術を盗んで母国に持ち帰る研究者の動きを阻止する動きは強まるであろう。これと並行し自国企業の中国への投資と中国企業の自国重要企業への投資の制限も進む。世界はブロック化に向けて走り始めた。豪州が中国依存の体質をどう変えていくのか注視したい。