Cheers 2020年7月号記事
AJCN代表兼事務局長 江川純世
近年のオーストラリアの対中姿勢を劇的に変えたオーストラリアの現代ジャーナリズム史上最もセンセーショナルで影響力のある本として有名なあの「サイレント・インベージョン」の邦訳版となる「目に見えぬ侵略」が5月末いよいよ日本で発売となった。
発売当日から増刷が決定、6月9日現在で5刷(45,000部)とこの分野では驚異的なヒットとなっている。日本語版は2段組の本文380ページ超えの分厚い装丁となっているが、6月9日キンドル版も発売されているので、分厚い本(といっても軽いが)を持ち運びたくない、電子図書に慣れている方はこちらを購入されるといいだろう。キンドル版には、写真がカラー、引用文献のURLリンクが加えられているので1クリックで文献にアクセスができる特典がついている。
原著のSilent InvasionについてはAJCNがCheers2018年11月号で紹介しているので参照されたい。
https://issuu.com/cheers.com.au/docs/cheers_10_2018/8
NHKも同じようなタイトルのドキュメンタリーを作ったほど、世界的に有名になったこの本の邦訳版、現地オーストラリアに住む日本人、日系人の方々に読んでいただきたい。
1. 原著Silent Invasionと日本語版刊行の意義
原著は2017年11月に発刊される予定であった。中国共産党の報復を恐れた出版社は刊行を断念したが、ハーディー・グラント社より2018年2月末にやっと発刊された。オーストラリアで発売されてからオーストラリアばかりでなく、アメリカでも大ベストセラーとなり、これによってオーストラリア政治の対中政策の姿勢に変化を与えた。著者のハミルトン教授自身も世界中で講演を頼まれるようになり、オーストラリアはもちろんであるが、アメリカでも連邦議会の委員会で証言などを行っている。
https://youtu.be/fIb0laof-x8
AJCNはこの本の邦訳版の早期刊行を翻訳プロジェクトの奧山真司氏(翻訳者)とオンザボード社の和田憲治氏(プロデューサー)にプッシュしてきた。それはこの本が中国の間接侵略の手口を余すところなく、具体例で解説していて、警鐘を鳴らす意味でオーストラリアよりも早い時期から侵略されているはずの日本に住む方々に読んでもらいたいと思ったからである。結果的に翻訳に2年かかり、AJCNの運動論的には原著とのセットでのプロモ―ションという観点からは時期を失した感もあるが、
米中激突、武漢ウイルス禍により世界の中国を見る目が厳しくなっているこのタイミングに、この邦訳本が発刊されたことは、中国に対する日本人の認識をさらに深める良いチャンスとも言える。
ASIO (Australian Security Intelligence Organization、米国のFBI相当)のエージェントによればSilent InvasionはASIOともう一つの情報機関ASIS(Australian Secret Intelligence Service、米国CIA相当)のエージェントにとって必読書になっているそうで、日本の政府関係者、政治家、公安のエージェントすべてにもこの邦訳本を読んでもらいたいと思う。
2. AJCNと本邦訳本との関わり
2017年よりAJCNは奥山氏と原著について情報交換を行っていた。
2018年2月Silent Invasion発刊後すぐにシドニーで私が購入し、前書きと目次を奥山氏に送り、奥山氏と和田氏はこの本の重要性を確認した後、オンザボード社の動画「アメリカ通信」でこの本の解説、PRを開始した。(動画21本)
https://www.youtube.com/playlist?list=PLiOVjCMLiDzm0fhAeolt5lAxuGEFuz0-p&fbclid=IwAR0DMLuHOXj54j-2VgRvOiBqPNMFCTUZBHwoVRleMQquenoOSDskoPzHUoc
同時に和田氏が飛鳥新社と交渉し日本語版を刊行することの了解を取り、奥山氏翻訳でプロジェクトがスタートした。次のハミルトン氏の著作(Silent Invasionの国際版、日本を含む)の翻訳も奥山氏が担当(監訳)することが決まっている。
奧山氏を含めた和田氏とYoutuberのKazuya氏のチームのオーストラリアでの受け入れはAJCNが行っているが、2018年10月に奥山氏達はキャンベラでハミルトン氏に会って翻訳プロジェクトについて確認、インタビューを行った。帰路AJCNメンバーとの情報交換会で、その結果の報告を受けている。私個人も2018年AJCN責任者としてハミルトン氏に会って翻訳プロジェクトの進行について会話を交わしている。
奧山氏の最新ブログ(
https://geopoli.exblog.jp/30086519/)からオーストラリアの外交官が実際に体験した興味深いエピソードを本の中から紹介する。(日本語版219ページの部分から引用)
トニー・アボットは、2014年に首相として中国を初訪問した際に、首相補佐官のペタ・クレドリンを連れていった。
彼ら一行は中国で「最も盗聴されている」と評判の、世界の高官たちが集まるボアオ・フォーラム に参加した。
オーストラリアの政府高官やジャーナリストたちは、中国入りする前に、豪政府の防諜機関である「オーストラリア保安情報機構」(ASIO:エイジオ)からセキュリティーに関するブリーフィングを受けている。
そこで提案されたのは、いつもとは別の携帯電話を持っていくことや、ホテルの部屋に備え付けの充電器で携帯電話の充電をしないこと、土産の中に入っているUSBメモリーは捨てること、セイフティーボックスの中も含めて部屋にラップトップのコンピューターを置いていかないこと、などだ。
補佐官のクレドリンは、最初に自分の部屋に入ったときに、まず中を注意深く見てみた。彼女は試しに、
まず時計ラジオとテレビの電源プラグを抜いた。
するとその後すぐに「
ルームサービスです」といってドアがノックされ、
ホテルの従業員が部屋に入ってきて時計ラジオとテレビの電源プラグを入れ直してから出ていった。
クレドリンがまたそれを抜くと、再びルームサービスがやってきてドアをノックした。再び電源を入れ直して出ていったので、彼女はその代わりに時計ラジオを外の廊下にある電源プラグにつないだ。それからテレビセットはタオルで覆った。
ところがフォーラムでは、首相が後にメディアに対して、オーストラリアは中国の「本物の友人だ」と答えている。
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AJCNでは日本語版発刊を記念してハミルトン博士のサイン会とこの日本語版のプレゼントを企画中です。後日広報します。