“黒”を“白”と言い、“放火犯”が“消防士”を気取る中国政府のプロパガンダ


Cheers2020年5月号記事

                         AJCN事務局長兼代表 江川純世


昨年11月に武漢で発生した新型コロナウイルスは変異を繰り返しながら、世界5大陸に蔓延している。まず中国が、新型コロナウイルスの起源問題を米国との情報戦で使える「弾」として使い始め、諸外国を巻き込んだ米中間の非難合戦が激化している。余波はCHQと揶揄されているWHOにも及び(現在米国は中国寄りを理由にWHOへの拠出金停止を検討中)、豪州も巻き込まれている。この情報戦のあらましと豪州での中国共産党指導による企業ぐるみの医療品買い占めと慈善活動を装った“マスク外交”について解説する。


1. 誰も信用していない中国のデータ
一党支配の元、隠蔽、データ操作が常識の中国政府から出された新型コロナウイルスに
関するデータは明らかに過少と見られている。それゆえ中国を含めたデータの相対比較は意味がない。専門家によれば中国の死者数は報告されたデータの3倍~5倍、感染者数は10倍と見積もられている。

1) 無症状の感染者数、統計への不算入
李克強首相は3月30日、無症状の者は感染者の統計に加えていなかったと述べた。

2) 武漢での死者数の隠蔽
武漢市は3月31日、新型コロナウイルス感染による死者が累計で2,548人になったと発表した。この数字は、実際の遺骨の多さに比べて極端に少なく、市民は「全く信用していない」。米政府系放送局ラジオ、フリー・アジアによると、感染拡大ピーク時の1カ月間に2万8,000人の遺体が武漢で火葬されたという。


2. 中国は1月中旬から情報戦を準備
中国共産党は、ポスト新型ウイルスを意識して中国批判をかわすためプロパガンダ戦展開が必要と判断、新型コロナウイルスを何週間も放置し蔓延させた国(放火犯)としてではなく、ウイルスに勝利し他の国々を救おうと善行努力している国(消防士)として自身を描こうと新しい“物語”を紡ぎ始めている。中国政府は、偽情報/数字の操作、陰謀説、WHOに対する影響力行使、さらにコロナウイルスに対する中国の勝利の英雄的な物語を伝える本さえ刊行し歴史の再構成に努めている。その成功物語の一つは治療装備を備えた病院というよりも雨漏りのするプレハブ検疫収容所という事実を隠しながら、わずか10日間で2千床の「コロナウイルス病院」を建設したことである。建設の過程を世界中のウエブやメディアに流し、その驚異的建設速度と規模を強く印象付け、ウイルス抑え込みに成功し4月初めに閉鎖したと発表した。


3. 米国の中国のプロパガンダに対する怒りと非難
米国側では習近平政権が武漢での集団感染が明白になった後もその事実を隠蔽したことが世界中への蔓延を早めたという認識で一致している。その前提で「武漢ウイルス」との呼称が定着している。中国当局は3月4日「ウイルスの発生源がどこであるかについてまだ結論は出ていない」と反発、3月5日にも「このウイルスの発生起源についてはなお調査が進行中である。このウイルスを中国ウイルスとか武漢ウイルスと呼ぶことは証拠もなしに中国に発生の責任を負わせようとする不当な動機に基づいている」と言明した。3月6日ポンペオ国務長官はワシントンでのテレビ・インタビューで、中国側がウイルス感染症の起源をあいまいにし始めたことに対するトランプ政権の公式の反論として「これはまさに武漢コロナウイルス」と述べた。

3月13日中国外務省の趙立堅副報道局長は、ウイルスの発生源が米軍の研究施設だと推測する記事をツイッターで紹介し、拡散を呼び掛けた。趙氏は12日夜には「武漢市にウイルスを持ち込んだのは米軍かもしれない」と主張した。中国外務省の耿爽副報道局長は13日の記者会見で、「ウイルスの発生源は科学的な問題だ」とのみ述べ火消しに努めたが、一連の発言はさらに米国の怒りに油をかけたことになる。


3月25日、ポンペオ長官はG7のテレビ会議後の記者会見で、中国の「意図的な偽情報工作」について議論したことを明らかにし、新型コロナの流行に関して引き続き正確な情報が必要と訴えた。
4月1日、トランプ大統領は中国が発表している統計数字は「やや少ない」ようだとの見解を示した。米ブルームバーグは米情報局が機密報告書で中国の感染者数と死者数を過少報告されていると結論付けたと報じた。
一方共和党議員が外国の公務員が偽情報を流した場合、個々人のビザの取り消し、資産の凍結などの制裁を科すなどの法案を準備中である。そのほか米国の個人、グループが中国政府を相手取り、情報隠蔽のために損害を受けたと賠償を請求する裁判がスタートしている。米国は中国から受けた甚大な被害を回収しようとする動きを示しているので、中国共産党内部では「米国に融和的な対応すべきとする派」と、「一連のプロパガンダ戦を維持・強化すべきという派」の対立も生まれるかもしれない。中国はいかなるプロパガンダを講じようとも「事実」に勝利することはできないであろう。


4. 豪州での中国共産党指導による医療品買い占めと慈善的協力
中国の報道機関によれば、中国は韓国、イラン、フィリピン、スペイン等の国に数百万のマスクを寄付、イタリアにも人工呼吸器と200万枚のマスクを提供した。最近フランスに10億枚のマスクを出荷すると発表したが、Huaweiから5G機器を購入した場合に限るとの条件付きで話題になっている。習国家主席は「中国の物語を伝え、中国の声を広めよ」と繰り返し指示しており、“マスク外交”はこのプロパガンダ戦の基幹戦略となっている。
一方1月24日から2月末にかけて中国系企業が世界的に(ヨーロッパ、豪州、ブラジル等で)医療品を独占する活動をしていたことが明らかになっている。この間中国はマスク20億枚、防護服2,500万着、約12億ドルを輸入した。ここ豪州でも複数の中国系企業が社員を総動員して医療品やその材料を大量購入し、中国に送っていたとシドニー・モーニング・ヘラルドが報じた。一社は中国不動産大手のグリーンランド・ホールディングス(緑地集団)で豪州やその他の国で外科用マスク300万枚、防護服70万着、手袋50万セット、消毒液とウェットティッシュを大量購入していた。グリーンランド・グループは1992年に上海で設立され、董事長の張玉良は共産党員である。

GOGOTSU 2020年4月2日 武漢に送られた医療品

ジ・エイジ紙は3月31日、1月初めに鄺遠平(こう・えんぺい)という人民解放軍の元軍人と組織犯罪に関与している民間組織が豪州で医療物資を買いあさり中国に送ったと報じた。鄺はHuaren グループを経営、さらに複数の豪州民間団体のリーダーである。これらは中国共産党からの支援を受けており、一部は統一戦線部と直接的なつながりを持っている。鄺が豪州で調達した医療用物資は医療用防護服3万5000着、手袋20万セット、消毒液10トンと報じられている。

鄺遠平と大量の医療品 SMH  March 31, 2020

中国共産党がサポートするこれらの組織が豪州で医療物資を大量に調達したことが、豪州の現在の医療物資不足を引き起こした可能性がある。多くの中国資本の企業や海外組織は豪州だけでなく欧米の各国で爆買いを行っている。グリーンランドは日本でも合弁会社を持っており、ここが日本での医療品買い占めに関わったと考えられる。買い占めをした後、今度はソフトパワーによって豪州に医療品を提供する「慈善活動」によって豪州への政治的影響力を強めようとしていると豪州の関係者は警鐘を鳴らしている。