最低賃金法違反の雇用者に課される罰則は?日本の緩さが奴隷労働を作る


移民法関係のアゴラへの投稿記事第3弾です。2019年11月28日掲載。日本の最低賃金法違反に対する甘い罰則とオーストラリアの現状を比較しています。日本の緩さが奴隷労働状態を作っているともいえるでしょう。


移民大国豪州に長年住む日系移民として自民党の入管法改正案に反対する理由は過去の2つのアゴラ掲載記事をお読みいただければお分かりになると思うが、さらにもう一つ理由を加える。日豪の雇用者側に対する規則違反、主に最低賃金を下回った賃金を払った場合の罰則の厳しさの違いである。

日本の最低賃金は二つの種類に分けられる。一つは、正社員、パートタイマー、派遣社員、アルバイトなど、雇用形態を問わず、すべての労働者に適用されるそれぞれの都道府県で定められている「地域別最低賃金」。もう一つは特定地域内かつ、特定の産業での労働者を対象とした「特定(産業別)最低賃金」である。
https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/kijunkyoku/minimum/minimum-19.htm
地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が適用される場合は、高い方の最低賃金額が適用される。

最低賃金法第4条では、最低賃金以上の賃金を支払わなければいけないことと、もし最低賃金以下の給与で従業員と会社の間で合意があったとしても、それは無効であることが定められている。すなわちいかなる事情があろうとも、定められた最低賃金を支払う必要があるということである。また最低賃金法第40条により、最低賃金を下回る賃金しか支払わず、なおかつ最低賃金額との差額を支払わない場合には罰則として50万円以下の罰金が課せられる。(特定(産業別)最低賃金未満であれば30万円以下の罰金)

最低賃金違反の場合、労働基準監督署などに通報されると、会社に調査が入ったりするので対応に多大のエネルギーを使うことになる。実態調査の結果、行政の裁定と是正勧告などがなされる。是正勧告後、すみやかに改善を行い支払などを行えば多くの場合それ以上の問題にならないが、是正勧告を無視したり虚偽の報告を行うなど行政が悪質と判断した場合には、書類送検、罰金という手続きに進む。最低賃金を下回っていた場合、会社にとってのリスクは金銭的なものばかりではない。最低賃金以下で労働者を働かせているというブラック企業というレッテルが口コミやネットによって拡散され、企業イメージの悪化は避けられない。従業員がネットで最低賃金の情報をチェックして自分の賃金がおかしいと一足飛びに労働基準監督署に通報されたりすると大変なことになる。


さて豪州ではどうか。私の豪州での就業経験と周囲の意見からすると、日本の環境は経営者にとって大甘だから、長時間労働、低賃金がはびこっているという意見がほとんどである。これらは若年層の収入の低さにつながり、それが結婚できない、子供を作れない、日本の少子化へと悪循環を作っている。下に豪州の労働管理局であるフェアワークオーストラリアのサイトの一部を張り付けた。

〇  $516,000 fine for underpaying workers  (賃金未払いに対する罰金約4,231万円
〇  $228,000 fine for not meeting minimal wages (最低賃金未満の賃金に対する罰金約1,870万円)(82円/オーストラリアドル)



https://fairworkhelp.com.au/pay-rates/?keyword_k=fruit%20picking%20australia%20pay%20rates&k_ignore=&kendelid=p.401._k_Cj0KCQiA_s7fBRDrARIsAGEvF8Q21FSCPWnKolQECXDViSINqVTosBhsC_f9RebGQtXnpJzYkkTVdLgaAtm7EALw_wcB_k_.kw392552&gclid=Cj0KCQiA_s7fBRDrARIsAGEvF8Q21FSCPWnKolQECXDViSINqVTosBhsC_f9RebGQtXnpJzYkkTVdLgaAtm7EALw_wcB

日本の罰金がいかに軽いものかわかるだろう。豪州は移民に対しフェアーな政策であろうと努力し、法律を破る者に対してはシンガポール同様非常に厳しい。日本では入管法の改正だけではなく関連法規のすべてを見直さなければ、秩序ある外国人の受け入れの実現など不可能である。

豪州の47% の雇用主が指定賃金を払っていないという記述については次のように説明できる。豪州は外需(輸出)、農業、鉱工業などの資源産業国というイメージがあるが、今の産業構造は内需、サービス業(GDP構成比率70%、雇用者数比率79%)に軸足を移している。
サービス産業の雇用者比率ベスト5に入る、宿泊・外食産業の外食産業では賃金の現金支払いが横行している。外食産業は英語をまともに話せないためオーストラリア人と同等の仕事に就けない移民の受け皿になっている。弱みに付け込まれ現金支払いで、最低賃金より低い賃金で労働をしている人がかなりいる。豪州の最低賃金(時給)は現在18.93ドル(約1,552円)プラス9.5%(Superと呼ばれる積立年金147円)である。レストランで働いているという日本人と話をしたことがあるが、まかない付きで時給15ドルと言っていた。これらのレストランでも当局に一本電話されれば、店は上記の多額の罰金を払い、長期の営業停止を食らう。メディアに非人間的な企業であるとたたかれて評判は地に落ちる。有名な回転寿司チェーンが違反を告発され、直営店方式からフランチャイズ方式にビジネス形態を変えざるをえなかったことがある。多くの店は耐えられずにつぶれる。土曜、日曜、祝日の時給は法律で2倍以上になるため、日曜閉店するレストランも多い。

メルボルンのハンバーガー店の前で不当な低賃金への抗議を行う若い移民の元店員たち。
その後、元オーナーには約2,460万円以上の罰金が科されることに(Junkeeより引用:編集部)

 このように、豪州政府は労働者の権利を守る強い意思で法整備をしている。それでも、リスクを冒しながら違法営業を行う業者は後を絶たず、語学力の低い移民が搾取の対象となっている。日本のように緩々の運営で移民を大量導入したらどうなるか。低賃金奴隷労働が蔓延し、様々な社会問題を引き起こすのは火を見るより明らかである。