一時帰国して見た、聴いた日本の現状


Cheers 2019年8月号記事

                         

AJCN Inc.事務局長 江川純世

6月、3年ぶりに日本に一時帰国した。インターネットを使って日本の記事を読み、動画を見て母国のことがわかっているつもりでも、かの地に住んでいる普通の人たちの生の声を聴くとわかっているつもりの日本の姿とは違った日本の姿が見えてくる。今月号では、事務局長が2週間弱の短い間にいろいろな方と話し、実際に自分の目で見た東京の姿から感じた日本の現状をレポートする。今回の一時帰国の大きな目的はCowraの日本庭園に能舞台を建設するプロジェクトを前に進めるための予備調査であったが、このプロジェクトについては別稿で紹介する。


1.日本の一般人は政治に無関心?世論調査アンケートの「どちらでもない」って何?
AJCNの事務局長として慰安婦像設置反対運動や、オーストラリアにおける差別やいじめの問題に携わっていると、自分の意志を表し、政治的立ち位置をカミング・アウトしなくてはならない場面に遭遇する。オージーは自分と仲間の利益に反する動きには敏感で、即座にデモなどを組織して、自分たちの権利と要求を周囲に訴えかけるし、選挙にも積極的に参加する。投票者としてだけではなく支持する候補者のサポート活動や政策への自己の意見表示にも前向きである。(投票率が高いのは投票しないと罰金を取られる仕組みのせいもあるが)
それに比べると日本ではいつも投票率が50%を超えるか超えないかの水準で、選挙前の支持政党アンケートでも「どちらでもない、どちらとも言えない」という回答項目が設定され、その「どちらでもない」がどの選挙でも30%前後あるのが普通である。


私は「どちらとも言えない」という回答は曖昧過ぎて無意味だと思う。「関心がない」と「わからない」の回答項目を設定すべきであろう。そのほかには「支持する」「どちらかといえば支持する」「支持しない」「どちらかといえば支持しない」ですべての回答をカバーできる。無関心と答える人は、自分は出た結果に文句は言わないし、そのために不利益を被っても仕方がないという意思表示をしたことになる。「わからない」と答えた人はその時点で情報が不足しているか、自分に自信がなく投票する資格がないと考えていることになり、「関心がない」人と同じくどんな結果も甘んじて受ける覚悟があるのだろう。私は憲法改正や消費税増税などの重要案件にも「わからない」人が多いのは、日本人に危機感がない、頭の中がお花畑なのではと思っていたが、もう一人の仲間は違った角度からこう説明した。

無関心、わからないという表現を少し違った言い方で言えばそれは、政治と自分の生活のリンクがその人の中でしっかりされていないことを示している。尖閣諸島の日本の領海に中国の軍艦が日常的に徘徊していても、それが自分の賃金、健康、仕事、家族の安寧にどう影響するのか、それがわからないのだ。憲法改正もしかり。今、日本の景気は少し持ち直しているように見えるが仕事があるというだけで、賃金は少子化を食い止めるレベルには程遠い。特に若い世代、ロスジェネ世代は将来に少しぐらい不安があっても今日を生きられるだけでありがたいという発想だ。それが18歳から39歳の男性の現政権の支持率が際立って高い理由であろう。一方リベラルといわれる左派や野党はこの状況をどうしようと思っているのか、仲間の野党に対する評価を聞いてみた。1991年のソ連崩壊後、北朝鮮の社会主義が前近代的な王朝政治であることがわかり、また残存する唯一の社会主義大国である中国も金と暴力で人民を統制し、膨大な軍事費を投入して軍事強国としてアメリカに対抗しようと海外進出に余念がない。リベラルが信奉する社会主義、共産主義の思想は「現実」に踏みにじられ、その後新たな鳥瞰的思想の構築ができずに、弱者の立場を借りて民主主義、人権擁護、多文化主義、社会的寛容などを教条的に呪文のように唱えているだけである。その主張もグローバル化の進行により「物」「金」の移動の自由に続く大量の「人」と「情報」の移動により、多文化主義(Multiculturalism)から多元主義(Pluralism)へ回帰(民族主義の復活)している現実の前では時代遅れの原理主義に映る。日本の野党はこのような世界の動きについていけず、何でも反対し、過去の民主党政治の失敗に対する反省もなく具体的な対案出せず、ただ与党の敵失をあげつらうだけと見られているので、国民の選択肢から完全に外れているとのことであった。



2.日本の未来は絶望的か?
今回の帰国でまずショックだったのが、到着ターミナルのバゲージ・クレームの侘しさであった。曲りなりにも成田空港は日本第一の国際空港であろう。天井には裸の蛍光灯のみで薄暗く、これからに日本の旅が始まるというわくわく感など持てる気持ちになれない。

「成田空港 バゲージクレーム 写真」の画像検索結果

この失われた30年間の日本の国際的ポジションの凋落についてはここでは触れないが、今もデフレと賃金安で苦しむ国民の呻吟は、街に出ても感じられる。すべてが安いし、すべてが過剰ともいえるサービスである。「おもてなしの精神」もやりすぎの感がある。
憲法改正や少子化対策などこの国の未来を決める大事な実効的法案がいつになっても出てこない。豪州のTry & Error方式のスピード重視の法案策定、実施に比べると日本の動きは極端に遅い。政府与党は経済にネガティブな影響を確実に与える消費税増税を唱えながら、きっと参議院選ではマジョリティを取るのだろう。国民にとって極めて狭い選択肢しかない状況で、30%前後の無党派層の投票行動を動かす「風」は吹くのであろうか。今の日本の状況は「愚民政治」「人気目当てのポピュリズム」とも違う八方ふさがりのように見える。

こんな情勢の中、6月12日、自民党の中で青山繁晴氏ら5人の議員が「日本の尊厳と国益を守る会」の発足を発表した。この会の目標は三本柱として、父系の皇位継承、中国や韓国資本による不動産買収が進む現状から外国資本による土地買収の拡大防止、そしていわゆるスパイ防止法の制定を掲げ、立法措置を目指すとしている。そのほか改正入管法の運用の改善、生活保護問題、永住許可の条件、国会議員と閣僚の国籍問題、沖縄県民を先住民族とするような動きの防止、内閣情報局(仮称)というインテリジェンス統合機関の創設、米軍横田基地空域の見直しなどにも取り組みたいとのことで、参加人数は数十名と見込まれている。自民党の外でも保守系団体であるチャンネル桜の水島総氏が新党立ち上げを視野に入れた活動組織を創設し、AJCN山岡代表が最近インターネットを使った「日本エア野党の会」という有権者の勉強会を立ち上げた。https://www.tea-party.jp/

これら中道保守系のグループの動きは、産業界や財務省、経産省、国交省、外務省などの官僚と既得権益でがんじがらめ状態にあり、60年余にわたる中韓のSilent Invasion(浸透工作)に侵されている大半の自民党議員にはできない戦後(敗戦)レジームからの脱却を目指し、真の独立国家にならない限り日本は滅亡するとの強い危機感に突き動かされたものであろう。また国民を覚醒させたいという強い思いも感じられる。健全な民主主義は、2大政党制からといわれて久しいが、今の野党がその一方を担うことができない以上、自民党内または中道保守側からもう一つの勢力を作り出そうというのは必然のように思われる。5年後10年後今の自民党は割れて、2大政党に分化していくというのが私の読みである。

日本滞在中、チャンネル桜の要請で、オーストラリアにおける中国の浸出について、スタジオで話す機会を得た。わかりやすいようAJCNメンバーが集めた写真を使ったので、日本の方々に中国のSilent Invasionの実態、恐ろしさについて理解してもらえたと考える。




3.日本の強みは何か、黙っている日本国民はいつ自己を主張し始めるのか?
私が深く憂うるのは日本の若者たちの給与の低さとブラック企業の跋扈である。少子高齢化が進行中の日本にとって今大事なのはいかに子供を増やすかである。それなのに政府、官邸、立法府、行政府は間接的な保育所の整備とか、さらに賃金を低くする可能性が高い入管法の改正による外国人労働者の大量導入などを行っている。フランスで効果を上げているような、子供を作れば可処分所得が増える大胆な減税政策などを導入すべきであろう。少子化改善という国益に直結する課題を、家庭の利得と直接リンクさせる政策の導入が必要であり、国民はそのために声を上げ新しい勢力を応援してほしい。

今回能舞台の調査のため、実際の能舞台をいくつか視察した。私が舞台に立ったこともある観世能楽堂は渋谷松濤町からGINZA SIX地下3階に移転していた。時間があったので同ビル6階の蔦屋を訪れ驚いた。DVDや一般書の販売店ではなく、世界のアートに関する図書が集められ販売されていた。ご存じのように日本の美術書の印刷のクオリティーは世界のトップクラスである。日本の本だけではなく各国の美術関係書、文房具小物、日本刀のコーナーまである。これらの本を眺めていても楽しいが、驚いたのは販売されている本の種類の多さとディスプレーであった。店内には椅子が各所に置いてあり、そこで展示されている書籍を自由に読むことができる。それだけではなく同じフロアーにコーヒーショップがありそこでも自由に本が読める。これはアメリカのライブラリー型書店であるが、そのディスプレーのセンスの凄さが、いかにも日本人と感じた。日本人は、パラダイムが変わるほどの変化を起こすことは苦手であるが、同じプラットフォーム上での改善・改良には極端といえるほどの執念を見せる。いわゆる「職人気質・魂」というやつである。蔦屋の中心の広いイベント・スペースには安藤忠雄の作品が置かれていた。それをハイセンスな本のディスプレーが囲んでいる。あまりのセンスの良さに外国人がディスプレーの写真を撮っていた。

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安藤忠雄の作品が掲示されているイベント・スペース(銀座シックス 蔦屋)
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ハイセンスな書籍ディスプレー(銀座シックス 蔦屋)

日本人のモラルの高さは、東日本大震災の時の被災者の行列、落し物が返ってくる、無人の野菜販売所が機能している、ベンディング・マシーンが壊されずそこかしこで動いている、など世界中に知れ渡っている。この民度の高さは、農耕民族としての長い歴史が作ったものと言われている。集団での固定した地域での労働、トラブルのなしでの解決方法、そしてでない「お上」に従う大人しさ、アミニズムに似た多神教的宗教観などが下地にある。

今話題に上っている皇室の存在も日本人の精神的安定と連帯感の源といえるかもしれない。今年スペインを再訪して西欧の王と天皇の違いを再認識した。マドリードの王宮には3百数十の部屋があり、それぞれに、反抗するものを殺し世界の植民地から吸い上げた富がこれでもかというほどちりばめられている。翻って天皇の住まい、京都御所の質素さはどうであろう。外敵の侵入を防ぐはずの壁は大人が手をかけて登れる高さである。中の建築物も木と紙でできており、防壁らしきものもない。多くの時代、天皇は時の覇者に利用されることはあっても自ら統治の実行者として権力をふるうことはなかった。天皇の主務は民のた
めに祈ることであった。

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京都御所の築地壁
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マドリードの王宮の外観と内部

今、令和の時代、強制されずとも皇室は国民の尊敬と親しみの対象となっている。
天皇がいるということも日本人の心の安定にとって大きな存在であり、日本人をまとめている強い社会的紐帯といえよう。だから戦後連合国占領軍が日本人のまとまりを壊すため、まず天皇制の廃止を検討したのであろう。
このモラルの高さ、職人気質は日本の歴史の産物であり、日本の美しい自然、文化とともに今の日本人にとって過去からの贈り物である。これらを未来の日本の強さとし、世界の各国と伍していける価値をどう創造できるか考えてみたい。

4.山岡鉄秀AJCN代表の書作紹介
今ほぼ毎日YouTube上の動画や記事でAJCN山岡代表のアウトプットを見ることができます。著作も最新作が先月発行され、著作(ケント・ギルバートさんとの共著含む)は4作となりましたので下にご紹介します。

1)山岡代表第1作目「日本よ、もう謝るな!」
ストラスフィールド市の慰安婦像設置を阻止した経緯と外務省と朝日新聞のひどすぎる英語発信、メディアや国連などでの反日プロパガンダについて具体的に書かれています。

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2)山岡代表2作目「日本よ、情報戦はこう戦え!」
情報戦に勝つための方策について、豪州での慰安婦像設置に成功した体験から書き下ろしています。

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3)山岡代表3作目「朝日新聞との対決 全記録」
日本語では謝って記事取り下げても、英語では相変わらず日本を貶める行為を継続している朝日新聞の欺瞞を暴いたケント・ギルバート氏との共著です。特定の記事が検索されないように操作していたことも突き止め、メタ・タグというIT用語を世に知らしめました。

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4)山岡代表4作目最新作「新・失敗の本質」
日本の失われた30年の原因を探り、グローバル化にどう対応したらよいか、日本の生き残り策についての提言です。クリティカル・シンキング、文化コード、ダブルループ・ラーニング、アンラーニングなど日本人が身に付けるべき思考法について解説しています。

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以上