NSW州孔子学級閉鎖はダ―ウイン、台湾、沖縄までつながっている。

Cheers 2019年10月号記事


                      AJCN事務局長 江川純世


1.NSW州孔子学級閉鎖決定。

先月号のこのコラムで孔子学院と孔子学級について触れた直後、8月22日に、シドニー・モーニング・ヘラルドの次のような記事が飛び込んできた。
SMS: NSW Department of Education is the only government department in the world that hosts a Confucius Institute.

中国政府の寄付により運営されている語学と文化プログラムがNSW州の公立学校から除去され、NSW州教育省によって導入される新たなプログラムに置き替えられることになった。前月号で私は豪州の保安当局によれば、中国政府プロパガンダ機関Hanbanによる金と人を使ったNSW州への食い込みはすさまじく、米国のような対処には時間がかかるであろうと書いた。しかしなんとその1週間後にこの決定が報道された。前月号に書いたように、現在豪州政府が13校の大学が孔子学院と結んだ契約内容が「外国干渉防止法」に違反していないかを調査中であり、孔子学級閉鎖への圧力はこれからさらに強まるであろう。
ではなんでこんなに早く事態が展開しているのか、それはターンブル首相の後、首相についたスコット・モリソン氏の性格と政策によるものである。


2.スコット・モリソン(Scott Morrison)首相について

政府関係者によればスコット・モリソン首相は熱心なクリスチャンで長老教会で育った。77年には、オーストラリアの長老教会、メソジスト教会、会衆派教会が合併してオーストラリア合同教会(Uniting Church in Australia)となる。大学卒業後、カナダのリージェント・カレッジで神学を学ぼうと考えたが、21歳で結婚したため、「家族を養うために働くべきだ」という父親の反対で断念した。妻のジェニーさんとはクリスチャンのユース・キャンプで出会った。後にペンテコステ派となり、現在はシドニーのホライズン教会のメンバーで、礼拝に定期的に出席している。
真面目な性格でdiplomaticで中国に対しては非常に厳しく対決姿勢を示している。この点前ターンブル首相とは全く異なると言ってよいだろう。米国に寄り添う姿勢も強く、それは中国の一帯一路政策への対抗、南太平洋諸国に対する投資援助など外交政策にも表れている。8月21日豪州政府は米国の要請に応じ、フリゲート艦のホルムズ海峡への派遣を発表した。そのモリソン首相の指揮下、孔子学院と学級をめぐる状況は急展開しているわけである。


3.ダ―ウインの米豪新基地をめぐる動き

AJCNはブログで2015年北部準州政府がダ―ウイン港をM506$で中国企業、嵐橋集団(Landbridge)に99年租借する契約を結んだことについて取り上げた。

今年に入ってメディアは立て続けに次のような記事を出して再びダ―ウインについて注意を喚起した。

ABC: Can the Darwin Port's 99-year lease to China be reversed? And what role, if any, did Andrew Robb play?

A sign on the fence of the cruise ship terminal.
嵐橋集団の施設があるEast Arm Wharfからクルーズ船や外国軍艦が停泊するターミナルがあるFort Hill Wharfや豪州海軍基地のあるHMAS Coonawarra Larrakeyam Barracks が丸見えである。さらに港湾管理(出入り船の管理)をやっている税関施設などは嵐橋集団が管理している。

ABC: How and why did the Northern Territory lease the Darwin Port to China, and at what risk?

SBS: Government rejects federal MP's call to buy back Darwin port from Chinese leaseholder
SBSのこの記事の中心は8月4日に開催された米豪2+2(外交・防衛)ミーティングの内容に関する観測(The move comes as Australia hosed down speculation the United States was seeking support from Canberra to put ground-based missiles in Darwin.)で、米国から中距離弾道ミサイルを北部準州に設置したいので協力してくれと提案があったのではという質問に対し、モリソン首相はメディアに即座にそんな相談はなかったと否定した。


4.ダ―ウイン港の問題が日本に関係する理由

ダ―ウイン港をめぐる今年に入っての著しい報道の増加を私が取り上げた理由について疑問に思う方もおられるかもしれない。これはこのダ―ウイン港から離れたところに新たに建設される海軍新基地(海兵隊の駐屯と海軍軍艦の停泊が目的)が日本の安全保障と関係しているからである。新基地について私が把握しているだけでなんと6月から7月にかけて4本の記事が出ている。



さてSBSが取り上げた中距離弾道ミサイルについて少し触れておく。米国はロシアと結んでいるINF(The Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty)から脱退することを今年8月に宣言した。INFは両国が持っている大陸間弾道ミサイルに関する条約であるが、最近INFに加盟していない中国が中距離弾道ミサイルを大量に開発、保有していることに米国政府が危機感を抱き脱退したと言われている。中距離弾道ミサイルの射程は3000~5500Kmあり、 南シナ海の中国の人工島基地はもちろん、台湾および中国上海周辺、沿海側の基地まで届く。日本メディアも台湾事変(中国が台湾を攻撃、占領し吸収する)について取り上げることはあるが、何が具体的に起こるかまで書いていない。豪州のメディアも南シナ海に対する中国の進出については懸念の記事を書くが 台湾にまで目が届いていない。中国は米軍の艦艇(空母打撃群)が中国沿岸に近づけないようDF-21ほかの新型ミサイルを開発して中国人民解放軍の海上戦略である接近阻止・領域拒否(Anti-Access/Area Denial, A2/AD)を実行している。もしダ―ウインに米国が中距離弾道ミサイルを置ければ、南シナ海基地だけではなく台湾事変に対し米豪連合の強い攻撃力となる。
台湾事変が起こったら日本は無関係であろうか?ダ―ウインからだけではなく、沖縄の周辺海域や沖縄の米海軍港に停泊している原潜(沖縄軍港に入港する原潜が核を積んでいることは軍関係者間では常識である)から弾道ミサイルが台湾海峡にある中国軍艦と沿海側の基地に雨のように降り注がれるであろう。これに対抗するため中国は沖縄に向けて中・長距離ミサイルを撃ちこむこととなる。日米安保および周辺事態法を適用して日本も参戦することになることを日本国民はどれだけ認識しているか? 


5.台湾の重要性

米国トランプ大統領は、中国との覇権争いに勝利するため、それこそ中国の急所を確実につく針を次々と打ってきた。

●事実上のアメリカ合衆国と中華民国(台湾)との間の軍事同盟である台湾関係法(Taiwan Relations Act)があるが、台湾旅行法(Taiwan Travel Act)を新たに追加した。
2018年3月16日、トランプ大統領の署名により台湾旅行法が成立。
●米国の対台湾窓口機関、米国在台協会(AIT)台北事務所(駐台大使館に相当)の新庁舎落成式が2018年6月12日に行われた。警備に海兵隊が派遣された。
●8月台湾への22億ドル相当の武器の販売許可。さらに新型の「F16V」66機の売却(80億ドル相当)を発表した。
●関税戦争、ファーウエー締め出しなど中国の技術・経済力を減殺させるあらゆる戦略を実行している。

なぜ米国は台湾をそれほど重要に考えているのだろうか?それは中国人民解放軍の基本戦略の中で設定された重要概念である第一列島線の上に台湾があるからである。台湾が中国のものになれば同じラインの上にある日本も中国に取られる公算が高く、そうなると太平洋の米国の覇権は著しく棄損することは確実である

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6.最後に。見てほしいマンガ

中国共産党の覇権拡大の恐ろしさはマンガ「私の身に起きたこと」を見ていただければわかると思う。今多くのウイグルの方々が迫害を受けている新疆ウイグルで何が起こっているのか、1分で読めるので是非お読みになっていただきたい。
https://pbs.twimg.com/media/EDSKVnUUEAA_kow.jpg
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以上